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董卓の最期
董卓は、貂蝉をつれて、長安から自ら築いた郿城に移っていく。その随行に、呂布はいなかった。
貂蝉が乗る車をただ見送ることしかできない呂布。
董卓らの一行が行った後、呂布はただただ、溜息をつくばかり。
そのとき、呂布の後ろから、将軍殿、太師閣下に随行せずどうしてこんなところで溜息をついているのかと呼びかける声があった。
振り返ってみると、司徒の王允である。
王允は、無沙汰をわびると、今一度、同じ質問をした。
「ほかならぬ、貴公の娘御のことです。」
呂布は、董卓が自分に、貂蝉を嫁がせるのではなくて、自らのものにしてかわいがっていること。そのことがきっかけで、董卓と対立したことを話した。
「太師殿がそのような禽獣の振る舞いをするとは。」
しばし、絶句した後、王允は、ようやくその声を絞り出した。
そして、拙宅までお越し願いたいといい、呂布を屋敷に連れて行き、誰もいない部屋に案内する。
王允が巧みに、呂布を煽ると、
「わたしは、あの老賊を滅ぼしてやりたいのだが、義理ながら、父子という事情があります。義父丁原の後、また、義父董卓では、後々の世の人になんと言われるか分かったものではありません。」
と、怒気を発する呂布。
「将軍殿の姓は呂。太師殿の姓は董。太師殿が、画戟を振り回しながら、将軍殿を追いかけたとき、父子の情はありましたかな?」
と、水をむける。
「司徒殿の言葉がなければ、私は、誤った道を選ぶところでした。どうか、私をお導きください。」
こうして、呂布は、打倒董卓の意思を固める。
王允は、信用できる朝廷の忠臣たちを集めて、打倒董卓の策を練った。
やり方は単純。董卓に、帝位を譲りたいので、朝廷に参内するように命じる。そして、おびき寄せたところで、呂布ら武装兵を率いて、抹殺してしまうというものであった。
董卓に、参内を促す使者として選ばれたのが、呂布を寝返らせた李粛であった。李粛も、また、自らを昇進させようとしない董卓に対して不満を抱いていたのであった。
李粛は、郿城で、董卓に面会すると、
「帝は、病気が平癒されたのを期に、帝位を太師閣下に譲ることを提案されることになりました。そのための詔でございます。」
うれしさを隠せない董卓。
「王允は何といっておる。」
「すでに、国譲りの儀式を行うための受禅台を築いて、閣下のご到着を待っておられます。」
董卓は、大喜びで、早速、参内する旨を伝えた。
出発するとき、貂蝉に、
「わたしが、皇帝になったら、お前を貴妃の位に立ててやるからな。」
と甘い言葉をささやく。すでに事情を察していた貂蝉であったが、歓喜した振りをして拝謝する。
そして、これが、董卓が貂蝉と交わした最期の言葉であった。
途中、不吉な前兆があるものの、李粛がうまく言いつくろって、長安までつれてくることに成功した。
不幸なことは、このとき、董卓の軍師であった李儒が、身辺にいなかったこと。もしも、彼が傍にいれば、このたびの計略を見破っていたかもしれない。
しかし、李儒も長安にとどまり、病気と称して自邸に閉じこもったままであった。
そして、長安に入ると、早速、朝廷の議場を目指して進んでいった。
もうすぐに、一国の皇帝になることができる。
そんな夢想を抱いて、議場に向かっていったのであろう。
しかし、門をくぐると、様子がおかしい。王允らが、宝剣を手にして待っている。
剣を持っているとはどういうことだと訝る間もなく、王允が一声、号令をかけると、周囲から、武装兵たちが現れる。
罠だと知った董卓は思わず、こう叫んだ。
「わが子、奉先、どこにいる!」
「私はここにいます。」
董卓の後ろから、現れた呂布。手にした画戟を大きく振りかざすと、
「詔によって賊を討つ!」
それが、董卓の聞いた最期の言葉であった。
自邸に閉じこもっていた李儒も捕らえられて、処刑され、董卓の居城郿城にも、呂布らの軍勢が差し向けられて、董卓の財産をすべて、没収するとともに、董卓の一族全員が、処刑された。
その後、貂蝉がどうなったかは定かではない。
もちろん、貂蝉は、正史三国志には登場しない架空の人物(呂布と私通した董卓の侍女がいたという資料が残っている程度。)であるが、演義の中でも、貂蝉のその後については、詳しく触れられていない。
董卓の死後、自ら、自害して果てたとも、連鎖の計を知った呂布によって殺されたとも、呂布の最期まで付き従ったとも言われている。
いずれにしても、反董卓連合軍でもなしえなかった、打倒董卓の目的は、たった一人の美女によって達成されたのであった。
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