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連環の計
孫堅の死を知った董卓は、自らに対抗しうるものがいなくなったと思い、いよいよ横暴振りを極める。
朝廷の忠臣であっても、謀反の動きがあれば、直ちに処刑してしまうという有様。
やがて、董卓は、朝廷の重職を自分の親近者のみで、固めてしまい、誰もがおびえて、董卓に逆らうことができなくなった。
その董卓の横暴ぶりに憤りを感じるものの、誰も、手出しをすることはできず、ただただ、溜息をつくのみ。
司徒の王允もその一人であった。
ある日、自分の屋敷の庭を歩いていると、切なく長く、思いつめたように短く繰り返される女の溜息が聞こえてきた。
娘のようにかわいがっている、歌姫貂蝉である。
男と逢い引きかと一喝する王允に対して、貂蝉は、ひざまづいて、私は、逢い引きなどしません。
「旦那様に、目をかけていただき、私の身分からすれば、夢のような生活を送っているにもかかわらず、旦那様に恩返しができません。このところ、旦那様は思いつめているご様子。私で役に立てば死をもいとわぬ覚悟です。」
王允は、はっと、ひらめき、あるはかりごとを思いつく。
しかし、それは、まだ16歳の貂蝉を汚してしまうもの。
王允は、叩頭して、貂蝉にはかりごとを伝える。
貂蝉は、
「私は死をもいとわないと伝えました。どうか、私をお使いください。」
貂蝉は、こうして、救国の美少女たらんとしたのである。
王允のはかりごとは直ちに実行された。
ある日、呂布を自らの屋敷に招いて、大いにもてなした。呂布の武勇を称えながら、
「娘を呼んで参れ」
と、貂蝉を呼ぶ。盛装した貂蝉の美しさに直ちに目を奪われる呂布。
王允は、早速、貂蝉を呂布の傍に侍らせて、酌をするように命じる。
呂布が、貂蝉の美しさにメロメロになったところで、
「娘を妾として呂将軍に差し上げたいのですが、お受け取りいただけますでしょうか。」
呂布は大喜びで承諾する。
その日の宴会はひとまず、終わり、呂布は、帰っていった。
数日後、王允は、朝廷で、董卓に会うと、拝礼しつつ、拙宅で宴会を開きますので、御来臨戴きたいのでございますがと申し上げる。
董卓は
「司徒殿の御招きなら、喜んでお受けしよう。」
董卓を屋敷に招いた王允は、恭しく礼拝しながら、
「舜が尭から天下を譲られた故事に倣って、太師閣下が漢から、天下を承継することが天意、民意にかなうことと存じますが」
と、董卓の本心をたくみにくすぐる。
董卓は、一応、そのようなことは望んでいないといいつつも、嬉しさを隠せない様子。
宴会の座に着くと、王允は、貂蝉を呼んで、舞や歌を披露させる。
貂蝉の美しさに目を奪われた董卓は、貂蝉に興味を持ち、何者かと問う。
王允は、屋敷で育てた歌姫の貂蝉であるといい、
「この子を太師閣下に献上いたしたく存じますが、お受け取りいただけますでしょうか。」
ともちかける。
董卓は、大いに喜び、その日のうちに、貂蝉をつれて、宮廷に帰っていった。
しばらくして、呂布が、王允のもとに来る。
「司徒殿、貂蝉は私に下さる約束であったのに、太師閣下にやるとはどういうことですか!」
「呂布どの、落ち着いてくだされ。太師閣下は、私の娘の貂蝉が呂布殿に嫁ぐことを知り、自らの手で、呂布と貂蝉を娶わせてやりたいとおっしゃって連れて行ったのです。」
呂布は、それならばと納得して帰っていくが、董卓からは、何の音沙汰もない。
訝る呂布が、董卓の宮廷に入って、侍女たちに聞くと、董卓は貂蝉と寝所に入っているとのこと。憤るものの、呂布から、董卓を詰問することはできない。
董卓は、すっかり、貂蝉の色香に溺れて、政務を執ろうともしなくなった。
呂布もすっかり、貂蝉のとりこになっていたので、ある日、董卓がいない隙に、貂蝉と二人で会う。
貂蝉は、はらはらと涙をこぼしながら、
「私は、呂布様の元に嫁げることを楽しみにしていましたのに、太師様がよからぬ心を起され、私の体は汚されてしまいました。汚された身では、呂布様にお使えすることはできません。このまま死んでしまいたいと思います。」
と蓮池に身を投じようとするが、呂布は、しっかりと、貂蝉を抱きしめる。
「私も、前から、貂蝉の気持ちは知っていた。こんなふうに話をする機会がなかったのがつらかった。」
「私が、哀れとお思いなら、どうか、私をお助けください。」
「私は、董卓に使える身どうすることもできない。」
「あなたが、こんなふうにあの老賊を恐れていては、私が呂布様にお使えできる日は来ません。」
泣きじゃくる貂蝉を呂布はただひたすら、抱きしめることしかできなかった。
しばらくして、董卓が帰ってきて、二人の様子を見ると、激怒する。
はっとして、離れる二人、董卓が、画戟を振り回しながら、呂布を追いかけると、呂布は脱兎のごとく逃げていく。肥満した董卓では、到底、呂布に追いつくことはできない。
すると、董卓の参謀の李儒が訝りながら、董卓の元に来たので、一切の事情を打ち明けた。
李儒は、「貂蝉は一介の女子にすぎません。一方、呂布は、わが軍になくてはならない猛将。ここで仲たがいしてはいけません。いっそのこと、貂蝉を呂布にやってしまうべきです。」
と進言する。
董卓は、考え込み、理性を取り戻し、そのとおりだと思い、貂蝉を呂布にやってしまおうかと思う。
宮廷に戻ってきて、貂蝉を詰問すると、
貂蝉は、またも泣きながら、
「私が、庭園で花を見ていると、突然、呂布殿が現れて、私を手篭めにしようとしました。犯されてしまうよりは、蓮池に身を投じて、太師閣下に操を立てようとしました。」
という。董卓は、お前を呂布にくれてやるがどう思うかと持ちかけると、貂蝉は、
「あんな、獣のようなやつに与えられるくらいなら、いっそのこと死んだほうがましです。」
貂蝉は、壁にかけてあった宝刀を手にして、自害しようとする。あわてて、抱きとめる董卓。
「からかったまでだ。決して、お前を手放すことはない。」
翌日、董卓と会った李儒は、
「今日は、日がよいので、貂蝉を呂布のもとに嫁がせましょう。」
と促す。
しかし、董卓は、貂蝉のことはこれ以上言うなと話をさえぎる。
女に惑わされたのかと、詰問する李儒に対して、これ以上いうと、お前といえども斬るといい、退出させてしまう。
退出した李儒は、天を仰ぎ、
「ああ、われらは皆、女の手にかかって死ぬのか。」
と嘆くのであった。
さてさて、この後、どうなってしまうのでしょうか。
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